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 砂漠のど真ん中にオアシス都市。その賑わう通りを、一人のサイボーグが歩いていた。

 昆虫のようなデザインの、機械の頭部が特徴的だ。真夏の暑さだというのに、黄色いマフラーとコートを着用している。

 サイボーグは、ある露店の前で立ち止まった。

「聞きたいことがある」

 顔の中央に空いた三つの穴から、男の声が流れた。

 話しかけられた商人は、人の良い笑みを浮かべた。

「はい、何でしょう」

「一週間前、ボトルブ港でコンテナが争奪された。そのコンテナを探している」

 そう言って、小さな包みを商人の前に置いた。包みの中身を確認した商人は、目を三日月のように細める。

「それなら、四日前にアンベイへ運ばれました」

「そうか」

 男は露店の前から立ち去った。賑やかな通りを進む。人通りはだんだん少なくなり、喧騒は背後へ遠ざかっていく。

 細い路地に、足音が響く。

 男は足を止めた。

「誰だ?」

 家の影から、六人のサイボーグが現れ、男を取り囲む。

「コンテナについて聞いていたな?」

 六人のうち、頭部が鳥のサイボーグが言った。

「ああ」

「困るんだ。よそ者に土足で踏みこまれるのはな」

「俺も、別にお前達の邪魔をしたくはない。だが、あのコンテナには俺の相棒が乗っている」

「そりゃあ大変だな。だが、諦めろ」

 男に六つの銃口が向けられる。

「……分かった」

 そう言った瞬間、男の目が光った。四つの機械の目から、強烈な光が放たれ、目の前の男の視覚回路がショートする。

 男は脚部のブースターを起動させ、高速で前に飛びだした。他の五人が銃を撃つが、全弾外れてしまう。男は振り向きざま、ベルトから拳銃を抜き、引き金を引いた。

 機械で制御された射撃は正確無比。五人の頭部に、次々と風穴が空く。最後に、未だ目がくらんでいる男を撃ち抜く。

 男は、再び歩きだした。

「き、貴様……」

 頭が鳥のサイボーグが、火花をあげながら、自身の拳銃に手を伸ばす。

 男は振り返った。同時に、銃声が鳴った。

 二つ目の風穴が空いた。鳥サイボーグは、今度こそ動かなくなった。

 男は、残骸の向こう側に目を向けた。

 一人の女が立っていた。褐色の肌に、豊かな黒髪。華やかな服装を見るに、通りで声を張りあげていた、売り子の一人のようだ。しかしその手には商品ではなく、拳銃を持っている。

「あ、あの、すみません」

 残骸を避けながら、彼女は男に近づく。

「その、さっき、聞いてしまったんです。貴方が港から消えたコンテナを追いかけてるって。私も、そのコンテナを探してるんです。でも、私一人じゃ、どこにあるかも分からなくて……一緒に連れていってくれませんか?」

「断る」

 男はすたすたと歩きだした。

「ま、待ってください!」

「連れはいらない。足手まといだ」

「私も、自分の身は自分で守れます!」

「あんなに手足が震えていたのにか?」

 女はう、と目をそらす。

「そ、それは、人を撃つのは初めてでしたけど、でも、お願いします。せめて話だけでも聞いてください! あのコンテナには、姉がいるんです!」

 男は足を止めない。

「ほら、これを見てください」

 女はポケットから小型タブレットを取りだし、彼の耳と思しき部位に近づける。

「──アミー、聞こえる?」

 女の声だ。ノイズが多い。

「私、今、悪い──に捕まったの。大きな箱──コンテナか何かに詰めこまれて、他にも人が──」

 ドアの開閉音。かすかに聞こえる、甲高い獣の鳴き声。誰かの怒鳴り声。

 男は足を止めた。

 タブレットを見る。そこには、怯えた女の顔が映っていた。横に顔を向け、何かに気づいたかのようにびくっと肩を振るわせると、

「助けて、誰かを呼んで!」

 そこでプツンと動画は切れた。

「これで終わりです。いくらかけても、もう繋がりません。電源が切れているみたいです。でも、自警団に相談しても、まともに取りあえってもらえなくて」

「……車の運転はできるか?」

 彼女はぱっと目を輝かせる。

「はい、できます!」

 

 

 砂漠を、一台の車が爆走していた。

 迷彩塗装が施され、遠くからは見つけにくい仕様になっている。四人乗りだが、後部座席は荷物置き場になっており、実質二人乗りだ。

 運転席に座っている女性──アミーは、緊張した面持ちでハンドルを握り、アクセルをベタ踏みしていた。

「あの、お名前を聞かせてもらっても?」

「キンだ」

「キンさん、何をしているのです?」

 キンは答えない。彼はアミーのタブレットを、車のモニターに繋ぎ、モニターを操作している。

「よし。これを見ろ」

 モニターに、地図が映しだされた。赤い点が東へ動いている。

「姉のタブレットの電波をキャッチし、画面に映している。この方向へ行け」

「はい!」

 アミーはハンドルをきった。

 やがて、前方に巨大なトラックが見えてきた。いくつものコンテナを運搬している。

「いっぱい見張りがいますね」

 トラックの周りには、護衛のワゴン車が何台も走っている。

「ここら辺じゃ、一番儲けている犯罪組織だからな。見張りも多いだろうな」

「そうなんですか?」

「ああ。薬物売買と婦女子誘拐で荒稼ぎしている」

「最低最悪じゃないですか!」

「そうだな。コンテナには俺の相棒もいる。絶対に助けだす。列の後ろにつけ」

 アミーはハンドルをきり、行列の後ろへ向かう。その間、キンは後部座席に手を伸ばした。まず耳当てをとり、アミーの頭に装着させる。

 続いて、大口径ライフルに手を伸ばす。どう見ても生身の人間には到底扱えない代物を、キンは軽々と持ちあげる。屋根の窓を開け、ライフルを構える。

 車が列の後ろについた。

 護衛車の人間が気づき、大声をあげる。銃口が向けられる。

 だが彼らが撃つ前に、キンが引き金を引いた。

 次の瞬間、一台の護衛車が木っ端微塵になった。

 他の護衛は、何が起きたかまるで分からない。目を丸くしている間に、彼らも次々と吹き飛んでいく。

 車の中のアミーは、生まれて初めて見る光景とやかましすぎる発砲音に、目を白黒させながら、それでも真っ直ぐ走り、コンテナの左側に近づく。

 コンテナの上から、わらわらと男が姿を現した。見るからにザ・悪党、といった風貌だ。

「そのまま走り続けろ」

 キンはライフルを座席に置くと、車の屋根に素早く登った。銃口が一斉に彼の方へ向く。

 キンの四つの目が銃口を捉える。彼は瞬時に、脚部のブースターを最大出力にし、跳躍した。弾丸の雨をかい潜り、コンテナの屋根に着地する。

 悪党どもは慌てるが、時すでに遅し、キンの蹴りと拳によって、トラックから吹っ飛ばされていく。

 キンは腰の拳銃を抜いた。他にも、邪魔な悪党がたむろしている。彼らを次々と撃ちながら、運転席を目指して走る。運転席に着くと、フロントガラスを足で蹴破り、中の運転手の脳天をぶち抜き、引きずりだして外に捨てる。

 空っぽになった運転席。キンはそこに座ると、トラックを安全に停車させた。

 運転席を出ると、ちょうどアミーが運転する車がやって来て、止まった。血と油と砂とサイボーグの部品で、フロント部分がぐちゃぐちゃだ。

「キンさん、すごいですね……あっという間でしたね……」

 若干ひいているアミーに、キンはコンテナの鍵を投げてよこした。

 二人で手分けしてコンテナの鍵を開ける。中は、衰弱した女子が、手足を縛られた状態でつめこまれている。

「……アミー?」

 微かな声。アミーはきょろきょろと見回し、そして、見つける。

「姉ちゃん!」

 姉妹は涙を流して抱きつく。

 一方、キンも相棒を見つけた。

「探すのに苦労したぞ。勝手に家を出て好き勝手散歩するから、こんなことになるんだ、全く」

「ワン!」

 キンは相棒の小型犬、タロを抱きあげた。

「おー、よしよし」

 キンはタロの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 タロは、キンの機械の頬をぺろりと舐めた。

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