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6-1

 金色の帯のような道、薄緑色の光で満たされた世界。とても静かで綺麗な、精霊の世界。化け物の姿はどこにも無い。
「臭う」
 霊道に入って開口一番、ソラは言った。足元を嗅ぐと、迷いのない足取りで、走りだす。
 やがて、白く輝く出口の一つに飛びこんだ。
 そこは瑞木の森の中だった。
 リエとヒナリはソラの背から下り、足音をできるだけ立てないようにしながら、小道を歩く。リエがソラと初めて出会った滝壺を通りすぎると、住んでいた家が見えてくる。中から物音は一切しない。戸を開けてみたが、誰もいない。
 森と外を隔てる門は開かない。ヒナリが術で鍵を壊し、門を開けた。長い道を歩き、二つ目門を壊す。
「う!」
 リエは口元を押さえる。
 地面に、たくさんの人々が寝かせられている。全員石化している。穏やかな表情の者は誰一人いない。助けを求めて手を伸ばしたままの女、目をカッと見開いた男、泣き叫ぶ子ども……。無数の石の目が、リエを無言で責めている。
「近い。すぐそばだ」
 リエは深呼吸して心を落ち着かせると、背中に手を伸ばし、弓を取った。次に矢を取りだし、帯に下げた箱の中に矢の先端を入れ、火をつけると、弓につがえる。
 お宮に入る前に、その周囲を見てまわる。石化した人々がバタバタと倒れている。担架も落ちている。石化の速さは、人によって違ったのかもしれない。すぐに石にならず、動けた人がいて、石化した人達を次々とここへ運んだ……リエの心に、そんな想像がありありと浮かんだ。
 もう一つの門も見つけた。リエが最初に来た時には見られなかった門だ。外の道には人々が倒れている。助けを求めてお宮へ向かっている途中で、石像になってしまったようだ。
 一周すると、リエはお宮に近づいた。足で戸を開ける。
 開けた瞬間、化け物と目があった。
 リエは即座に矢を放つ。化け物が、一瞬で炎に包まれる。化け物は怒りくるい、中から飛びだした。
 化け物は一体だけではない。次々と出てくる。リエ達はあっという間に囲まれた。
 リエは動じず、落ち着いて矢を装填する。その隙を化け物が突こうとするが、ヒナリが即座に結界を作りあげ、それを阻む。化け物が怯んだ隙に、リエは次の矢を装填し、射つ。
 次々と化け物を倒し、お堂の中が静かになる。慎重に中に入った。
 中は薄暗い。矢の先端で燃える火が、床に寝かされた人々を不気味に照らしだす。
「あ……」
 並んだ石像の中に、バア様を見つけた。涙を流しながら石化していた。リエは涙が流れそうになるのをぐっとこらえる。
「その人間を甦らせたくないか?」
 声が聞こえてきた。壁際に鎮座する、金色の魚の像からだ。
「これ以上私に刃向かえば、彼女の命は無いぞ。このまま、私を倒したとしても、彼女は石化したままだ。彼女を助けたいのなら、今すぐその矢を下ろせ」
 リエは矢を射った。像は溶けた。
 唸り声が響きわたる。壁や床、天井から、影が染みだしてくる。化け物だ。
 リエ達は急いで戸口へ走った。世ノ河へ降りる階段へ繋がる戸口だ。戸をふさぐ化け物を焼いて倒し、お堂を出る。
 階段にも化け物がたむろしていた。階段の左右に生えている木々、その影から沸いている。
「乗れ!」
 ソラが叫んだ。リエとヒナリは、ひらりとソラの背に乗った。ソラは、化け物の頭を踏みつけながら、あっという間に階段を駆けおりる。
 世ノ河の河原では、正座し、額を地面にこすりつけ、祈りながら石化した人達がいた。彼らが祈る先には──オボロがいる。
(あれ、なんか、小さい?)
 大きいといえば大きいが、見上げるほどの大きさではない。クジラの姿のヒナリと同じくらいだ。
 リエが戸惑っている間に、オボロは、ギザギザの歯をむき出しにし、唸り声をあげた。牙と牙の間から泥のような見た目の化け物がボトボトと落ち、リエに向かって泳いでくる。
 ヒナリは両手を前に向けた。世ノ河の水面がうねり、渦を巻き、化け物を飲みこんでいく。
 階段からも化け物がやってくる。四つ足の獣、ムカデや蟻、うねうねとした不定形のもの。おびただしい数の量だ。ソラはやってくる化け物を、次々と迎えうつ。化け物の首に噛みつき、目を潰す。
 リエは、オボロ目掛けて一心不乱に速射する。矢は全部命中し、浄化の火があっという間に金色のウロコを焼いていく。
 凄まじい悲鳴が響きわたった。オボロは火を消そうとのたうち回る。だが火は消えず、逆にどんどん広がっていく。泥のような化け物にも火が移り、どんどん燃えていく。ヒナリはリエの横を離れ、ソラの手助けに向かった。
 その瞬間、オボロの口の奥から、無数の手が伸び、リエへ襲いかかった。
 リエは咄嗟に後ろへ下がるが、間に合わない。長い長い、真っ黒な手が、リエの胴に巻きつく。そのままリエをぐんと引っ張り、オボロの口へ連れていく。矢を射つどころではない。弓をしっかり持つだけで精一杯だ。
 オボロは大きな口を開け、リエを丸呑みしてしまった。

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